「今後は空気を資源として使っていかなければならない」――。2025年のノーベル化学賞を受賞した京都大学特別教授の北川進氏は、日経クロステックの取材にこう語る。地政学リスクの高まりで資源価格が高騰し、資源を確保すること自体が難しくなる中、同氏の指摘は重みを増している。

 空気を資源として使うとは、どういうことか。北川氏は、地下資源を新たに掘り起こすのではなく、大気中の二酸化炭素(CO2)を回収し、活用するという構想を描く。そのための中核技術こそが、ノーベル化学賞の受賞対象にもなった「金属有機構造体(MOF)」だ。

 MOFとは金属イオンと有機配位子で構成する多孔性材料で、多孔性配位高分子(PCP)とも呼ばれる。ナノメートルサイズの孔に働く分子間力でガスなどを吸着する性質を持つ。

 MOFの特徴は、ナノレベルの空間を自在に設計できる点にある。それによって、特定の分子だけを選択的に吸着、貯蔵、分離することが可能だ。加えて、従来材料に比べて非常に高い表面積を持ち、同じ体積ではるかに多くのガスを扱える。そのため、大気中のCO2回収(DAC)や天然ガス貯蔵といった用途が期待されている。

 今、このMOFの商用化が急速に進んでいる。2030年ごろの実用に向け、多くの企業や研究機関が開発を加速させている。

 2026年6月11~12日に大阪市で開催する「未来をつくるテクノロジー展 日経クロステックNEXT 関西2026」では、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点特定拠点准教授の樋口雅一氏が、MOFの可能性や商用化最新動向について解説する。樋口氏は長年にわたって北川氏と研究を共にしてきた人物で、約10年前にMOFの商用化を目指すスタートアップを起業した。

ノーベル化学賞「MOF(多孔性金属錯体)」の可能性と商業化最新動向
2026/06/11 (木) 15:55 ~ 16:35

2025年のノーベル化学賞の受賞テーマ「MOF(多孔性金属錯体)」は、ナノ空間をもつ多孔性材料として、気体や分子の貯蔵・分離・変換を可能にする。本講演では、CO₂回収、メタン貯蔵、機能性ガス分離、腐食性ガス制御などの分野で進むMOFの商業化事例を紹介するとともに、世界のスタートアップ動向や量産化・制度面の課題について概説する。