「ネイチャーテック」という言葉をご存じでしょうか?ビジネスパーソンの間で急速に話題になってきた単語です。

 ネイチャーテックとは、文字通り「自然を測る技術」。例えば、ドローンで森の木々の高さや太さを測って炭素固定量を算定したり、海中のカメラやセンサーでワカメや昆布の繁茂状況やいけすの中の魚の健康状態を調べたりすることです。人々がスマホで集めた各地の動植物の情報でビッグデータをつくり、街づくりや鳥獣管理の計画に役立てたりということもあります。スマート農林水産業もネイチャーテックの1つだと言えます。

 このネイチャーテック、なぜビジネスパーソンにブームになってきたのでしょうか。

 企業は今、事業活動が自然に及ぼす影響(インパクト)や、自然に与えるリスクと機会を投資家に開示することが求められています。「うちの会社は事業によって自然にこれだけ悪影響を与えている、あるいは自然(水不足や自然災害)からこれだけ影響を受けている、それが財務状況を逼迫して収益にこんなに影響している」。逆に、「自然への対策を取っているから、あるいは自然を増やす活動をしているからビジネス機会になる」。こうした開示、報告が金融機関からの投融資の呼び込みにつながるようになりました。

 この流れができたのは、3年前に国際的なルールが登場したからです。2022年に国連で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」という自然に関する世界目標が採択されました。世界では人間活動により生態系が劣化し、絶滅危惧種も増えています。そこで、2030年までに生物多様性の損失を止めてプラスに転じる「ネイチャーポジティブ」という考え方に世界が合意しました。

 目標達成のために、企業や金融機関の関与が強く求められるようになりました。企業はサプライチェーン(供給網)を通して自然にどれだけ依存し影響を与えているか、また、どれだけ自然に関するリスクを抱え機会を創出しているかを、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)リポートという報告書で開示しなければいけなくなったのです。このリポートは金融機関が読んで投融資に役立てます。

 開示のためには、測らなければいけません。そこで登場したのがネイチャーテックです。大手企業が自ら技術を開発するだけでなく、IoT(インターネット・オブ・シングズ)の企業や、大学発ベンチャーなどが新しい技術を提げて続々参入。この分野は今、百花繚乱(りょうらん)の状態になっています。

 動植物ビッグデータに企業の事業拠点の位置を入力すると、即座にその会社の自然のリスクや機会を弾き出すツールもあれば、海の水をくんでDNA分析することで、そこを通った魚のふんの痕跡から魚の種類を当てる「環境DNA技術」など、多様な技術が登場しています。

 ネイチャーポジティブ経営が重要になっている今、ネイチャーテックは企業にとって欠かせない技術になっています。

【基調講演①】なぜ今、生物多様性が重要なのか。世界の潮流とテクノロジー最前線/【基調講演②】熊本市の地下水・生物多様性保全の取り組み 他
2025/10/17 (金) 13:00 ~ 17:00

気候変動の加速により自然資本の劣化やリスクが世界各地で顕在化する中、「ネイチャーポジティブ」への移行が急務となっています。ネイチャーポジティブとは、自然の損失を止めてプラスに転じるという国連の目標。その実現を可能にする技術が「ネイチャーテック」です。生態系のモニタリングや、企業の自然関連リスク開示を支える技術から、循環経済や気候対策技術にも貢献する技術などを中心に多様な技術が登場しています。有望な投資領域として金融機関からも期待が高まっています。自然と技術を結ぶ最前線を展望します。