最新のクラウド技術を主体的に体験できる学習型カンファレンス「AWS re:Invent 2021」が、2021年11月29日から12月3日にリアル(米国ラスベガス)とオンラインでハイブリッド開催された。そこで発表された数々の革新的な事例の注目すべきポイントを、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの岡嵜禎氏と広橋さやか氏が語り合った。

岡嵜 昨年末に開催された「AWS re:Invent 2021」では、米国AWSやユーザー企業から盛りだくさんの発表が行われました。

広橋 岡嵜さんはどのようなメッセージが印象に残りましたか。

岡嵜 やはりPathfinders、すなわち業界の変革に向かう先駆者・開拓者をAWSは全面的にサポートするというメッセージです。実際にさまざまな業界の先駆者がAWSのクラウドを活用することで成功を遂げており、今回のイベントで発表された事例の数々は非常に大きなインパクトがありました。

広橋 たしかにAWS を活用することで業界の常識を覆してきた企業の取り組みには、私も驚くばかりでした。ぜひ岡嵜さんイチオシの事例を伺いたいです。

岡嵜 ではゴールドマン・サックスの事例を挙げたいと思います。広橋さんはゴールドマン・サックスについてどのような企業というイメージを持っていますか。

広橋 一言でいえば、世界屈指の金融グループといったところでしょうか。

岡嵜 もちろんその認識も間違いではないのですが、同社はいまや機関投資家向けの情報提供プロバイダーへと変革しつつあるのです。同社は早くからクラウドを活用してきましたが、その範囲を社内だけにとどめるのではなく、蓄積されたデータや分析アルゴリズム、アプリケーションをどんどん外部に提供していくというチャレンジを開始し、ビジネスを拡大しています。

広橋 まさにPathfindersそのものですね。AWSも貢献しているのですか。

岡嵜 もちろんです。同社の取り組みはAWSとのパートナーシップによって実現されたものです。例えば外部の機関投資家とセキュアにデータをやり取りする「AWS Data Exchange」、金融に関するデータを分析する「Amazon FinSpace」、分析アルゴリズムやアプリケーションの流通を担う「AWS Marketplace」といったAWSサービスとの連携により、情報提供プロバイダーとしてのビジネスの基盤が構築されています。

コロナ禍で低下した顧客ロイヤルティーを30ポイント向上

岡嵜 広橋さんの印象に残った事例も聞きたいです。

広橋 では私からは、ユナイテッドエアラインの事例を挙げさせていただきたいと思います。同社は高コストでスケールにも限界を迎えたレガシー基盤を刷新すべく、検討を開始していました。ところがそこで直面したのがCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックです。

岡嵜 普通の企業であれば、検討はストップしてしまうところです。

広橋 実際、運輸旅行業界は今般のパンデミックで最も大きな影響を受けた業界のひとつで、同社の航空機も一時期はクルーの人数よりも乗客のほうが少ないという危機的な状況に見舞われたそうです。しかし、それでも同社は変革を止めませんでした。アプリケーションをクラウドに移行することでビジネスのスピードを加速し、コストを節約するとともに、“Travel-Ready Center”というプロジェクトを立ち上げました。

岡嵜 それはどのようなプロジェクトなのですか。

広橋 端的に言えば、パンデミックに伴い増え続ける渡航規制により低下してしまった乗客の利便性を改善することを目的としたものです。例えば搭乗前にPCR検査の陰性証明書を提出することが義務付けられたのですが、同社は乗客が自宅からアップロードした証明書をAIで文字認識し、自動的にチェックするアプリを作って公開しました。これにより乗客は空港での証明書チェックをスキップし、待ち時間なく飛行機に搭乗できるようになりました。こうした乗客の利便性を向上するアプリが、現在では100本以上作られ、AWS上で稼働しています。結果として、顧客ロイヤルティーを測る指標であるNPS(ネット・プロモーター・スコア)が30ポイント以上も向上したとのことです。

岡嵜 30ポイントってものすごい効果ですよね。

広橋 はい。NPSはマイナス100からプラス100までありますが、30ポイントの違いは業界の最上位と最下位くらいの格差があるのではないかと思います。

デジタルツインも実用化の時代へ

岡嵜 今回のAWS re:Inventでは、デジタルツインに関する事例が紹介されていたのも目を引きました。

広橋 デジタルツインとは、物理システムから現実世界のデータ、例えば構造を表すCADデータ、センサーから収集した装置の状態や動きなどのデータ、あるいは点検記録といったデータを取り込んで仮想空間に再現する、要するにコンピューター上に作られた実世界のレプリカのことですね。

岡嵜 デジタルツインを活用することで、工場やプラントなどの環境全体をリモートで監視したり、あるいは仮想空間でシミュレーションを行って現場作業の改善につなげたりすることが可能になります。AWS re:Inventでは、INVISTAという繊維化学メーカーがプラント点検の生産性向上や環境安全衛生の向上を目指して作成したデジタルツインの事例が紹介されていました。具体的には「AWS IoT TwinMaker」という新しいサービスを活用することで、時系列データや各種センサーで収集した設備データ、カメラによる映像からの3Dスキャニングなどのデータを統合し、プラントのデジタルツインを作成しています。非常に精細でハイクオリティなモデルを実現していることに驚きました。

広橋 そのデジタルツインをどのように活用しているのでしょうか。

岡嵜 プラントに異常が起こったとき、広大な設備の中でどこに問題があるのか、リモートから一目で分かるようになったそうです。プラントの点検の現場でも作業員が正確な情報を正しい文脈、正しいタイミングで理解することが可能となり、部品交換が必要になった際にも、いちいちオフィスに戻って図面を確認することなく、その場で処理できるようになったということでした。

サプライチェーンの課題を解決

広橋 デジタルツインと少し関連するものとして、IoTを活用してサプライチェーンのトレーサビリティーを実現した事例も非常に興味深い内容でした。

岡嵜 サプライチェーンの最適化は日本企業にとっても大きな課題になっていますからね。どのような事例だったのかぜひ教えてください。

広橋 カナダ最大の港湾であるPort of Vancouverの事例です。同港には日々膨大な数のコンテナが運ばれてきますが、その検査プロセスが非効率で透明性も課題となっていました。保管出荷などの業務はすべて紙で運用されていたため慢性的に遅延が起こり、検査待ちの行列ができていたそうです。

岡嵜 その課題をどうやって解決したのですか。

広橋 既設の監視カメラに着目し、コンテナの入港から出港まで捉えている映像を「AWS SageMaker」に取り込み、コンテナIDをエッジで自動認識する機械学習モデルを構築しました。ここで認識したコンテナIDとタイムスパンをクラウドへ送り、各コンテナがどこで何分くらい待機しているかを分析し、プロセス改善に生かしています。これにより同港では紙による業務処理のボトルネックや遅延を解消できました。なお、取得したデータは「Amazon Managed Blockchain」を使って改ざんされないように管理しているそうです。

岡嵜 新たにセンサーなどを導入するのではなく、既設のカメラ映像を活用したのが大きなポイントと言えそうですね。これならば横展開も容易です。

広橋 おっしゃるとおりです。同港では今後、少なくとも3つのコンテナターミナルへこのシステムの横展開を予定しているとのことです。

岡嵜 今回のAWS re:Inventで発表された優れた事例を挙げていくと枚挙にいとまがありません。こうしたPathfindersによるDXへの取り組みを、ぜひ日本企業の皆様にも“自分ごと”として捉えていただきたいですね。

広橋 はい。皆様の気づきを促し、取り組みを後押ししていくため、AWSジャパンとしてもさらに積極的な情報発信を行っていきます。

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
URL https://aws.amazon.com/jp/

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